

一九八八年までは一定額の貯蓄にはマル優制度があって、利子や配当は無税であった。
しかし現在は六五歳以上の人とハンディ・キャップの人だけに優遇制度があるだけで、利子所得や配当所得には分離課税制度が適用されている。
このようにわが国には、かつては貯蓄に対して税制上の優遇措置があった。
倹ュ府の強力な金融機関保護政策があったので、金融機関の倒産がなく、国民が安心して金融機関にお金を預けたこともある。
この事情が最近大きく変化していることはいうまでもない。
最後に強調しておきたいことがあるが、金融資産選択のところで述べた日本人の安全志向の高さである。
安全志向が高ければ、病気への備え、所得の不確実性、それに老後に備えた貯蓄、すなわち予備的動機の貯蓄が高くなることは当然予想できる。
この安全志向(ないし危険回避)の心理選好の強いことが、日本人の貯蓄率の高さを説明する最も重要な遠因ではないかと考えている。
貯蓄の違いが資産分配に与える影響力において最も重要な点は、家計貯蓄額が所得階級によって異なることである。
すなわち所得の高い人ほど貯蓄額が高いのである。
明らかに貯蓄額は所得が増加すれば上昇することが示されている。
年間貯蓄額をみると、最も低い階級である第1所得階級で三七・八万円、第1で七三・九万円、第Vで八二・六万円、第Wで二三・八万円、第V所得階級で一三五・五万円に達している。
これは家計に経済的余裕があることによって容易に理解できよう。
ただし所得階級別の貯蓄率には、さほど差がないことに注目してほしい。
貯蓄率はそれほど変わらないが、貯蓄の絶対額が大きくなるということは、資産の増加に寄与する度合がより強いことになる。
所得階級が高くなれば、貯蓄残高が飛躍的に伸びていることがわかる。
もう少しやさしくいえば、豊かな人ほど資産の増加量が平均よりも多いことを意味するし、逆に貧困な人の資産増加量は平均よりも少ない。
すなわち豊かな人はますます資産を増やし、貧困な人は資産を増やすことができない。
資産分配はますます不平等化することになる。
所得階級別に貯蓄を考慮すれば、資産分配は内在的に不平等化に向かうという性質を持っているのである。
「内在的」というのは自然のなすがまま、あるいは放置しておけば、という意味がある。
もし資産分配の不平等化を阻止する必要があるのなら、なんらかの政策が必要なのである。
一九八○年代の後半、わが国は未曾有の地価と株価の上昇を経験した。
地価と株価の変動を長期間にわたって示したものである。
両者の価格が急激に上昇して、その後一九九○年代初頭に急落したことがわかる。
このように異様な資産価格の高騰をバブル(泡)と呼ぶ。
泡はいずれ破裂する可能性を秘めている。
バブルをもう少し理論的に定義すれば、経済合理性に基づく経済理論でもって説明できない資産価格の変動をバブルと呼ぶ。
もし土地や株式の価格に大幅な変動があったとしても、それが経済合理的に説明できればそれはバブルではない。
あるいは経済学で説明可能なバブルは「合理的バブル」ともいわれ、純粋のバブルと区別する考え方もある。
バブルの発生には次のような原因が考えられている。
例えばネズミ講のような行動を多くの人がとった時とか、偶然と偶然が重なった時に発生する。
あるいはある種のショックに誘導されて多くの人が合理的に反応することが、結果としてバブルになることがある。
歴史的に有名な例は、近世のオランダで多くの人が、熱病のようにチューリップの新品種開発と育成にかかわったことがある。
その後急激にチューリップ熱が冷めて、バブルが破裂したのである。
バブルの発生原因を探求することはやや学問的すぎるので、ここでは詳しく論じない。
むしろ簿くバブルによって生じた結果の方が興味深いので、ここでそれを考えてみよう。
第一の効果はマクロ経済に現れた。
バブルに浮かれて好景気を迎えて多くの人が高所得をえることができた。
ぜいたくな消費に走ったわが国民であった。
しかしバブルの破裂後は反動として長期の不況を生むこととなった。
一九九○年代の長期不況がこれである。
第二の効果は、所得分配、特に資産分配の極端な不平等化である。
この第二の効果を詳しく検討してみよう。
地価の動きまず地価の動きを長期にわたって検討してみよう。
一九五五年から現代まで、六大都市圏住宅地と全国住宅地の指数を示したものである。
比較のために名目GDP、名目賃金、消費者物価指数も同じく示してある。
第一に、六大都市と全国の住宅地の価格指数は、名目GDP、名目賃金、消費者物価のどれよりも相当高い上昇率を示している。
この傾向が四○年間にわたって連続して続いていることは驚異的ともいえる。
特に消費者物価の上昇率よりもはるかに高く、土地が普通の商品とは異なる特殊な商品であることを物語っている。
「土地神話」の起源の一つもここにある。
第二に、土地価格の上昇率が所得の指標である名目GDPや名目賃金の上昇率より高いことは、土地を買うための所得財源の伸びが地価の伸びより低いことを意味する。
これは多くの人にとって土地を購入することが困難であることを示している。
士地を購入したいと希望しても、資金不足の人が多く発生するのである。
つまり土地を持ちえない人の存在を意味している。
第三に、一九八五年前後を境にして、土地の価格が急激に上昇し、その後九○年前後から下降局面に入ったことがわかる。
特に大都市である六大都市圏の急上昇と急降下が著しい。
これがバブル期に相当する現みである。
この時期大都市では、普通の人にとって一軒家を購入することは不可能といわれたことは記憶に新しい。
バブルが資産分配に与えた効果は明らかである。
資産分配の不平等が急激に進んだ。
特に持ち家のある人とない人の間の資産格差にはすさまじいものがあったことも示された。
「持つ人」と「持たざる人」の格差は一九八六年から八八年にかけて、ジ二係数によると○・七〜○・八ポイントになっており、非常に高い不平等度の差である。
バブル崩壊による地価下落が資産分配に与えた影響を考えてふよう。
データがまだ利用可能ではないので、資産分配の不平等度がどれほど低下したかはわからないが、やや不平等度が低下したことは確実である。
しかし、ここで重要なことを指摘しておきたい。
六大都市圏と全国住宅地の双方について一九八五年前後までのトレンドをそのまま引き伸ばすと、一九九六年のレベルと一致することが読みとれる。
これは、もし一○年間のバブルがなかったとしても、一九八五年までの地価上昇率のトレンドが続くことによって、一九九六年時点の地価に到達していることを意味している。
すなわち、もしバブルがなかったとしても、地価は現時点のレベルに到達しているにちがいないのである。
バブルの発生と崩壊がなくても、一九八五年までの土地価格上昇率がそのまま続けば、現時点の地価になるのである。
ここで述べたことの経済的意味は、現時点における資産分配の不平等度は、たとえバブルがなかったとしても、バブル発生前のそれと同等か、あるいはそれ以上の水準ではないかということである。
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